水を使い、洗浄・切断・はつりといった様々な施工をクリーンに提供できる「ウォータージェット工法」。環境にも人体にも優しいその工法が現在、多くの分野に進出しています。
そんなウォータージェット工法ですが、水しか使わないのに多彩な作業に対応できるマシン・装置が生まれるまでのロマンあふれる工程を、設計・開発から実際の施工までワンストップにこなす「久野製作所」に伺いました。
引用元:久野製作所公式サイト(https://wj-kuno.com/)
編集チーム(以下「編」):ウォータージェット工法に使用されるマシンの、主な開発フローを教えてください。具体的に、どんな方が何名程度でどのようなことを行うのか、内容を簡単にご説明いただけますと幸いです。
取締役装置開発部長を中心に、装置開発部と工事課の混合チームで対応します。内訳としては、作り手(設計製造)と使い手(現場担当、工事課)の混合チーム2~4名で共同作業を行うイメージです。
現場に必要な要件を営業担当から聞き、マシンに必要なシステムとツールをピックアップ。重量や安全性もこの段階で図面で確認します。
CAD、Excel、ホワイトボードや紙とペン等を使用し、実際に図面を作成します。
掛かる日数は、規模や現場の着工工程等により異なります。長いもので1か月、部分的な部品等なら2~3日ってとこです。設計段階から、作り手(装置開発部)と使い手(工事課)が意見を出し合い共有することによって、現場での不安やトラブルのリスクの軽減につなげております。
ExcelとCADを使用し、設計図を作成する様子。
製造は、取締役装置開発部長を中心に、装置開発部2~4名程度で行います。
材料や部品(既製品)を取り寄せ、すべての製造工程を自社で行います。製作した部品を組み立て、調整と試運転を行い、サイズ感や重量、動きや耐久性などを検証して、不完全な点があれば立ち戻って再度作り上げます。正確な工程は下記になります。
製造過程1:材料を切断。慎重な対応が求められます。
製造過程2:フライス加工中の様子。
製造過程3:旋盤加工の様子。
製造過程4:塗装の様子。
製造過程5:組み立て。機械と手作業で組み上げます。
製造過程6:仕上げ。職人が丁寧に確認していきます。
社内試験ヤードで動作確認
これらを経て、やっと製品の完成です!
掛かる日数は構造や工数により異なりますが、長いもので6ヶ月程度、部分的な部品等なら1~2日ってとこです。
マシンが完成したら、スタンダードな装置は工事課の現場担当者が現地で調整を行います。特殊な装置の場合は、その立ち上げの際に装置開発部を中心に進めます。その後、工事課に引き継ぐ形です。現場の規模にもよりますが、3~6名程度のチームで対応します。
現場着工までの工程にもよりますが、可能な限り、着工前に社内の試験体で施工試験を行ってから現場で使用するようにしてます。そうすることで、負荷をかけた際の動作確認や反力等の耐久性、施工性などを確認できます。
機能を最大限に発揮して課題を解決できるよう、細かな調整を進めます。
編:設計・製造・施工まで、各分野のプロフェッショナルがそろった久野製作所様ならではの対応力ですね。
編:久野製作所様はそもそも機器の製作会社だと聞きました。ウォータージェット工法に携わることになったきっかけや、今ここまでウォータージェット工法に注力されている理由、工法への想いなどを教えてください。
創業は、昭和46年3月(昭和63年6月10日法人設立)になります。創業当初は従業員数8名程度で、金属加工業(オイルシール成型事業、旋盤加工、フライス加工など)を主な生業としていました。
ウォータージェット関連事業に携わるようになったのは、ウォータージェット機器部品の製造受注がきっかけです。一つの部品に始まり、部品からパーツに、そして、装置そのものと規模が広がっていきました。
ただし、装置(一つの動作機構を有したもの)として納品する頃には、現場からクレームも届くようになりました。この頃は正直なところ、私たちはそもそもその装置がどんな目的で、どんな環境で、どんな使われ方をしているのかを理解しきれておらず、言われるがままに開発していただけだったのです。
その姿勢を改め、納品先の現場に足を運ぶようになりました。現場の環境、装置の使用意図、達成したい課題。それらを理解しようと必死に学び、改良して納品し直してはまた現場を確認する。これらを繰り返しているうちに、分野違いの現場そのものを受注するようになりました。
それが今の我々のアイデンティティである「機械を作れる施工会社」のスタートです。平成4年ごろだったと思います。
編:「機会を作れる施工会社」! パワーのあるフレーズです。久野製作所様の技術力と現場の経験が感じられます。
しかし、機械を作れるが故の苦悩はまだありました。この頃は汎用性の装置をなかなか作れなかったんです。現場に合わせてカスタムすると、結局その現場にしか使えない。一現場、一装置限りでその機械はお蔵入りとなってしまいました。
それでも経験を重ねるうちに、様々な条件に応じた汎用装置を作り出せるようになりました。現在ではその性能も認められ、数は少ないのですが、販売もさせて頂いております。
ウォータージェットは、非常に優秀な特性を持ち、時代にマッチした工法である反面、取り扱いによっては、非常に危険を伴う工法でもあります。
そのことから、ウォータージェット装置の販売は積極的には行わず、知識と経験と当社への理解ある会社様にのみ販売するようにしております。年単位で2~5機くらいでしょうか。
その他の開発製造としては、自社現場に対応する装置作りが主になります。新規現場や新規構造物等に応じた、機械装置を考案・設計・製造、または、改造(改良)しております。年間の施工現場数は、施工規模は色々ありますが、100現場以上でしょうか。おかげさまで、年々増加傾向にあります。
世間に(いっても土木・建築関係者ですが)ウォータージェット工法が認知されるにつれ、問い合わせ数や受注会社様の数も増えてきました。特に構造物の補修を得意とする会社様や橋梁に精通している会社様の増加は、顕著になっております。
その他にも、今後活躍できそうな新たな「テーマ」に共同で取り組み装置開発を行うといった、新たな受注スタイルも増えつつあります。
常々、弊社は将来に向け、ウォータージェットの可能性を探り、作り上げていきたいと思います。
時代は、ますます働き手不足になります。そんな中、インフラ整備、維持管理は、必須であり、これらの手法は、喫緊の課題であると考えます。このウォータージェット工法は、前述の通り「危険を伴う」工法で「体力面でハードなこと」があります。そういった意味で、担い手不足は、他業種と比べても、加速しているのが現状です。
これらの解決策として、私たちは「作業員を守る」「操作者を助ける」ための省力化・自動化をウォータージェット工法によってさらに進め、不幸な事故のない、時代に寄り添った開発をしていきたいと思います。
編:トライアンドエラーを繰り返し、着実に信頼を獲得してきたからこその今がある。その歴史をひしひしと感じました。今後のご発展にも期待が膨らみます!
久野製作所の公式サイトで
ウォータージェット工法への
取り組みを詳しく読む
久野製作所株式会社 武藤氏
地元、二本松市出身。17歳の頃、先輩の紹介で久野製作所に入社。入社当初から、ウォータージェットの業務に従事。当時の主な業務は、鉄道車両のリニューアルに伴う外板塗装の除去作業。全国各地に点在する鉄道会社の各工場が職場となる。平成7年の阪神・淡路大震災を契機に土木建築現場でのウォータージェット施工が増え、全国各地の現場に従事。工務課長、取締役ウォータージェット事業部長を経て、平成25年6月に専務取締役を拝命。好きなテレビ番組は、クイズ番組(雑学知識が身につく)とお笑い・ネタモノ系の番組(ストレス発散になる)。
「ウォータージェットの魅力は『まだまだ未開拓素材であること』に尽きると思います。一言で「ウォータージェット」といっても実は多様で、例えば『噴射水圧』『噴射水量』の2点を変えただけでも、結果はまるで違います。逆に言うと、容易に変化させることができるということです。しかし、その容易さと『扱いやすさ(制御できるか)』は別の話。日々の研究、データの収集などが必要になります。施工のターゲットに対して、様々なアタックをすることによって、精度や進行速度、経済性と安全性など、変化させていけると考えます」